




荒川と隅田川に挟まれた、「江東デルタ地帯」
そこに広がる摩天楼。
都営白鬚東アパート。
物々しい設備を纏ったその団地は、下町を災害から守る正義のヒーローとなる。

目次

【住所】東京都墨田区堤通
【交通】東武伊勢崎線鐘ヶ淵駅より徒歩5分
【戸数】1,607戸(都営団地)、256戸(公社分譲)
あの「カネボウ」が紡績工場を構えた街、墨田区鐘ヶ淵。
鐘ヶ淵は荒川と隅田川に挟まれたデルタ地帯で、「江東デルタ地帯」と呼ばれる。その地帯に聳え立つのが、都営白鬚東アパート。
白髭東公園沿いに聳える団地は全長約1kmにも及び、その姿はまるでロボットか、巨大な戦艦のよう。

団地概要

団地巡り
下町を守る、「戦艦団地」
公営団地は時に、住宅のみの目的だけではなく「他の目的」と合体したものがある。
鉄道の車両基地を内包した都営西台アパート、街の公園を内包した河原町団地—
それぞれが都市整備という公共団体の「都市整備」と抱き合わせで開発がなされた団地である。
都市整備のなかで他に重要なファクター、それは「防災」である。
都営白鬚東アパート。
荒川と隅田川に跨がる「江東デルタ地帯」に1979年に建設された白鬚東アパートは、住宅の役割だけではない、ある目的が存在している。
それは、木造建築が多数存在する江東デルタ地帯で大規模火災が発生した際に、延焼を防ぐ防火壁である。1979年当時、団地という建築物は「不燃」の代表格であった。その団地を約1kmにわたって設置し、有事の際に防火壁の役割を果たすという計画であった。
そのため、この団地にはほかの団地にはない特徴や設備がたくさん存在する。
住棟は、1号棟が住宅供給公社管理、その他2号棟から12号棟が東京都都市整備局管理の都営アパートである。
1〜11号棟がシングルコリダー型の廊下アクセス棟、15〜17号棟がツインコリダー住棟となっている。
住棟間で数字が飛んでいるが、12〜14号棟は防災用品の備蓄棟となっている。



団地外観
約1kmにわたって続く白鬚東アパート。
11号棟と防災棟。(食糧等の貯蓄倉庫)

8号棟。複雑に絡み合うマテリアル。

4号棟。放水銃設置階の天井は赤く塗装されている。
トランスフォームする団地。
団地外観。
墨田一帯の防火帯として計画されたこの白髭東アパートは、全長約1kmにわたって続く長大な団地であり、隣に設置された防災公園である白鬚東公園と併せて計画された。
団地は全長約1kmに渡るため、圧迫感を減少させる目的か雁行されて配棟されており、クネクネ折れ曲がりながら続くさまは圧巻である。
4〜5階部分には放水銃が設置されており、駆体設置のためか階層部に厚みがあり、見分けのため廊下部天井が赤く塗られている。
団地全体の手すりなどは緑に塗られているため、緑と赤のコントラストが美しい団地となっている。
防災公園と抱き合わせで開発された団地であるため、防災拠点としての設備や施設も多く、いまにもトランスフォームしそうな、物々しい意匠となっている。



団地設備
街と防災公園を繋ぐ、白鬚橋門。各棟間はエキスパンションジョイント構造。
7号棟。大規模火災の際は防火戸を閉じ、延焼を防ぐ。

放水銃の装填階天井は赤く塗装されている。

放水銃。大規模火災時に水を壁へ放射し、冷却する。
「門」と「銃」がある団地。
団地の設備を見てゆく。
「防災拠点」として銘打つだけあって、その設備は物々しい。このセクションの題名を「門と銃がある団地」と銘打ったが、誇張ではない。団地の各所には赤く塗られた放水銃があり、装填階の天井部は放水銃・スプリンクラー棟設備の駆体が収められ、見分けのため赤く塗られているのが最高である。
団地の棟間には仰々しいほど巨大な門が設置されており、災害で火災が起きた時に、近隣住民が白鬚東公園へ避難するための門となっている。
この門は言わばショッピングセンターなどにある防火シャッターのような役割を果たしている。
「この街を守る」そんな強い想いを感じずにはいられない設備である。



ツインコリダー住棟
ツインコリダー住棟。中央下部は保育園棟、右側は集会所。
棟を貫く防火戸。動線は複雑怪奇を極める。

中央広場。球技のできない遊び場で、少年少女は想像力を鍛えるのであろう。

なんかめっちゃラピュタっぽい。
”秘密の花園”へ、ようこそ。
直線的な意匠が複雑怪奇に交わったり折れ曲がったり...ここは白鬚東アパートのツインコリダー住棟。
この「ロの字」の形をした住棟には様々な要素を孕んでいる。棟の中央に巨大な防火シャッターが鎮座し、間を貫く様に設置された保育園住棟、住棟を覆う草木、突如出現する中央広場に集会所。
なにかに似ている...と考えてたどり着いた。ここはラピュタだ。
パズーとシータが飛行船に乗ってたどり着いた、秘密の花園。人工的な建造物のそれを覆う草木、複雑怪奇に入り乱れる動線。スロープ、広場。複雑な建造物は、少年の心をワクワクさせてくれる。

























アーカイブス

作品撮り


巨大な団地は、時に団地以外の目的を孕んでいる。都営白鬚東アパートは、その際たるものであろう。
関東大震災レベルの大災害時、木造建築の多い墨田区近辺の火災延焼を文字通り「盾となって」防ぎ、近隣約2万人を「盾の向こう側」の白鬚東公園へ避難させる。そのために、様々な設備が物々しく施されている。
住民は1978年の入居当初より一貫して、防災意識がとても高かったそうな。団地の設備だけではなく、そこに住む住民も能動的に防災活動をしていたというのであるから、驚きである。
しかし今や白鬚東アパートの入居者の約2割は災害時要介護者というデータもある。核家族化が進み、近隣との交わりも減ってきている昨今、今一度、「地域とのつながり」は、見直されるべきではなかろうか。

まとめ
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